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武田物外句集 春
祝春
大筒の音もきこえず今朝の春
大砲の音もきこえず御代の春
極楽も地獄もてらす初日哉
正月や遊ぶにこまる人もあり
万歳や徳は堪忍申いれ
元日やたしかに拾ふ年の玉
是に越す宝物座らぬ年の玉
有がたしひとつ戴く冬の玉
これ程な宝またなし冬の玉
鶴亀も知らずに拾ふ冬の玉
元日や如意宝珠より生根玉
太平の御代にあまるや初日かげ
海原はしら帆も見へず初日の出
太平は百六十年の初日哉
ゆったりとした大空や今朝の春
眼があいて足も立けり今朝の春
姿見にこころも移せ今朝の春
今朝の春達磨が白眼ばかりなり
静かさや塵も動かず御代の春
大声に天下泰平はつがらす
大声にふたこゑ三声初がらす
聞なれたとうりこそよし初烏
君が代や初がらすまで大鼾
万代や初からすまで大鼾
万代やいつもの通り初がらす
野も畑も人はとがわず若菜つみ
鶴の居る処はよけて若菜つみ
若草や何処へなりともこけ次第
鉄鉢や我らがための蔵開き
西東もまれてのびる柳かな
ゆらりくしては芽を出す柳哉
柳かな見るたびくに観世音
雪霜の中より出来て梅の花
雪持たちからは強し梅の花
天地のちから瘤なり梅の花
有明や障子いっぱい梅の花
孤家に番茶もろうて梅の花
梅開や闇夜となれば浄め役
暗め夜に誰とても知る梅の花
神代から此花といふ匂ひ哉
人もなく森が影もなし梅の花
ぶらりく瓢箪さげて梅の花
瓢箪を持たぬ我さへ梅の花
瓢箪の腹わた出して梅の花
梅開く瓢箪ひとつふらりく
曲がるありねじれも出来て梅の花
我が睡房めうちより開く梅の花
春の風真向きに来てもこヽろよし
大津店鬼も動かず春の風
枝の鳩どこまで飛ぶや春の風
どちらから吹かれてもよし春め風
とちうから吹かれてもよし春の風
そろりく両手をついて初蛙
湖灯すみになきけり初蛙
杓子から手足が出来て鳴く蛙
吾ひとり初鈍と申しそろ
子の日せむふた抱へみる松の本
草の餠知らぬ野山の匂ひかな
苦ひもの誰もいやく二日灸
先の世も鬼にまけぬぞ二日灸
月雪やさし向く花に二日灸
白隠の隻手の音か呼子烏
笑ふ中に鳴くは烏なり春の山
花や花春を担ふて売りにけり
古池や何万そだつ蛙の子
おのが境界に似たるものは
歯がなうて丸呑にする蛙かな
翁忌
翁忌や蛙もあなにかしこまり
やめば止む鳴は一度になくかはづ
我やらず月を押へて鳴く蛙
一時の栄華は是が花の山
世の人は皆長者なり花の頃
瓢箪の酒詰りかへる花の下
瓢箪の味格別ぞ花見酒
花野山瓢箪寝さす緋毛氈